2010年8月8日日曜日

コンセプトが確立されている飲食店は?

これまでクオリティ・レストランのコンセプト作りについて何度か書いてきましたが、私自身、まとめながら書き進めてきたこともあり、具体性に欠ける内容だったと思います。フレームワークや何やらと言ってしまうと、一般的なビジネス論・ロジカルシンキングの話になってしまい、クオリティ・レストランにとって具体的にどうなのか、という・・・。

ということで、以前、ひらまつさんをネタにWeb戦略を推察したように、任意のお店(ある程度有名なお店)のコンセプトを読み取ることで、クオリティ・レストラン業界の方にも具体的にイメージいただけるようにしたいと思っています。

が、その前に。

誰がどう見てもコンセプトがきちんと成立しているお店ってどこがあるでしょうか? 先のエントリーに、ンセプチュアルであることの前提として、企業やお店が、自身と関係する人/企業などと繋がるための根本価値や意味を、共有可能な状態になっていること を挙げました。少し微妙な言い回しですが、クオリティ・レストランのコンセプトの構造を以下のように図示化することでイメージいただけるのではないかと思います。




第2階層、第3階層あたりを構成する要素については異論もあるでしょうが、それなりにMECEになっているのでは無いかと思いますので、このエントリーでは深く突っ込みません(コメント欄からご意見いただければ幸いです)。


「コンセプトがきちんと成立する」ためには、企業やお店が、自身と関係する人/企業などと繋がるための根本価値や意味を、共有可能な状態になっていることはあくまでも前提であり、コンセプト実現のための第1階層に過ぎません。店の立ち上げ/経営/オペレーションに関係する内外スタッフとコンセプトを共有できないとすれば、それは店としてのコンセプトを成立させる前提を満たしていないことに気付くべきです(途中で気が付けばまだ間に合う場合もありますが、場合によっては料理の変更やオペレーションの変更では済まない場合もあるでしょう)。


第2階層に達するには、コンセプトを各要素ごとに日常的に具現化する力が必要。


第3階層は、コンセプトを継続的に維持・進化させ、独自性組織の外、潜在客⇒見込み客⇒一見さん⇒リピート客⇒常連といった「細分化された各消費者層」に対して店の思いを浸透させていく試み。


第4階層は積み上げてきたコンセプトが(少なくとも地域内で)その店固有のものとして、自他共に認知される段階であり、他店との安易な比較や揚げ足取り的な浅いレベルの批判・中傷にはビクともしないコンセプトに昇華した時点。


個人的には、これらに加えて、各階層を「顧客に楽しさを提供する精神」が貫いていれば、クオリティ・レストランとしては最高レベルではないかと考えています。





こう考えると、「コンセプトの確立」と「ブランドの確立」はほぼ同義であると言えるのではないでしょうか。もっとも、確立されたブランドであってもコンセプトを維持・発展させる段階でつまづくことは(原因は様々ですが)よくある話ですし(ex. 吉兆、青柳、ピエール・ガニエール...etc)、必ずしもコンセプトを確立すれば多くの消費者に好かれるとも言えません。

そういう意味でも、図中の第1階層は「前提」なのです。多くの人に好かれたいなら、そのためのコンセプトを考え、構築していくべきです。

上図の第1階層をクリアするために、パーセプション(認識)という言葉をご紹介させていただきます。通常、この言葉は、商品やサービスの供給側が訴えたいことをポスターやTVCMに乗せた意図が消費者にどの程度、理解されたか、ということを示すのに使われます。

例えば、以下のような想定/目標を掲げたお店があるとしましょう。
  • 30半ば以上の可処分所得の多い、飲食好き向けの割烹
  • 目標客単価:\12,000-/人
  • 肉よりは魚/野菜好き
  • 地酒好き
  • カウンターが無いので、2人以上のグループ客に来て欲しい
  • 終日禁煙
訪問して欲しいお客に来てもらうためには、こういった情報を来店前から潜在客/見込み客に伝える必要がありますが、それがうまく出来ないと、結局、自分の想定/目標とは異なる客層が集まる店になってしまいがちです(ex.酒が飲めない人が多く、ゆえに客単価が上がらない、1人客が多い など)。そして、それに伴い、掲げた矜持が霧散してしまいコンセプトを確立させる前に当初の意図とは全く異なる店として認知されてしまうのです(ex.拘って仕入れた魚・野菜も他の適当なものと同じように捉えられ、高い店(CPが低い店)と思われる など)。

このような認識のズレが発生している状態をパーセプション・ギャップと言います(そもそも外部に向かって主張していないのに、消費者がわかってくれない、というのはパーセプション・ギャップとすら言わないでしょうが)。

お店がその意図を、まずは消費者にきちんと理解してもらって、そこをなぞってもらえなければ、常にパーセプション・ギャップは発生する可能性があり、それはお店&お客、どちらにとっても不幸です(意図や期待とのズレはトラブル・混乱の元でもありますし)。ということで、第1階層はお店とそのステークホルダーとの間にパーセプション・ギャップが無い状態(=コンセプトが共有可能な状態)と考えると良いのではないでしょうか。

なお、コンセプト/パーセプションの話は、私は、「守・破・離」に似ていると思っています(「守・破・離」の意味はリンク先をご参照ください)。クオリティ・レストランのコンセプト/パーセプションに当て嵌めると・・・
  1. 守 : まずは当初の意図通りに実行し、お客にもその意図を理解してもらい、それを十分に楽しんでもらう
  2. 破 : 慣れるに従い、お客は、お店が意図した以外の事から楽しみを感じるようになり、+αの楽しみ方をお店も許容できるようになっていく
  3. 離 : 最終的に、+αをうまく元の意図に取り込むことができたお店は、コンセプトの確立・拡張を果たすことができる
いかがでしょう?

このエントリーの最後に、あまり好きでは無かったのですが(笑)、犬養裕美子さんというレストラン・ジャーナリストが書いた「人は何故、通いたくなるのか? レストランジャーナリスト犬養由美子の答え」という記事をご紹介します。

Webの記事としては長いですが、なかなか秀逸なテキストで、彼女が「守・破・離」に近いことを思いながら、この記事をまとめられたのではないかと想像します。飲食店関係者だけでなく、消費者にとってもウンウンと頷く箇所が多いのではないでしょうか。

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