2010年8月18日水曜日

【ワインねた】ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズに嵌められている足枷

コンセプト分析の次の事例分析の前にどうしても書いておきたくなったので、このエントリーを急きょ投稿しました。

これから書くことは、知っている人はとうの昔に知っていることで、何を今更鬼の首を取ったように言うのか、とおっしゃる方もいるでしょう。しかし、その情報を正確に把握している人はそれほど多く無いと思うし、そのことが消費者にとっても、生産者や流通に関わる人にとって利益にはならないと思ったので、取り上げてみました。

さて本題。

コアなワイン好きの人にとっては、樹齢の高い古木で作られたワインは値段の高低を問わず、非常に魅力を感じるものだと思います。高樹齢で有名なワインとしては・・・
  • ロワールのProvignage(プロヴィナージュ) / Henri Marionnet(アンリ・マリオネ)
  • 南部ローヌのChateauneuf du Pape Cuvee da Capo(シャトーヌフ・デュ・パプ) / Domaine Pegau(ドメーヌ・ペゴー)など、シャトーヌフ・デュ・パプのスペシャル・キュヴェのいくつか
  • ブルゴーニュのDomaine Ponsot(ドメーヌ・ポンソ)のClos St.Denis(クロ・サン・ドニ)
などがあります(たまたまですが、どれも大層なグラン・ヴァンです)。しかし、日本の多くのワイン好きが古木、樹齢といったキーワードを意識するようになったきっかけを作ったのは何と言っても、
  • シャンパーニュのVieille Vigne Francaise(ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ) / Bollinger(ボランジェ)
ではないでしょうか。

ロマネ・コンティよりも小さな畑で生産量も少なく(そんなワインは世の中にはかなりの数存在することが認知されてきていますが)、リリース機会も少ない(良い年だけリリース)ということから「白いカラス」と呼ばれることもあり、リリース直後のシャンパーニュとしては最も高額なお酒の1つとなっています。そして、その高額を支える魔法の言葉(?)として「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」という銘柄があります。

この「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」の言葉の意味は直訳すると、Vieilleは「古い」、Vigne Francaiseは「フランス産の木」とすれば良いはずです(間違いであれば是非ご指摘ください)。なので古いフランス産の葡萄から出来ているんだということが想像されます。

※Vigne Francaiseと似た言葉としてFranc de Piedがあります。こちらの意味は「接ぎ木無し」。

で、かつて、ボランジェのヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズは「フィロキセラに侵されていない古樹のピノ・ノワールから2,000~2,500本だけ造られるブラン・ド・ノワール」などの一言でまとめられる場合が多かったように思います。このことから、フィロキセラ害を乗り越えて100年以上の樹齢のピノ・ノワールから作られる奇跡、究極的にレアなブラン・ド・ノワール(黒ブドウから作られた白ワイン)というイメージが刷り込まれ、ワイン愛好家は「一度は飲んでみたいシャンパーニュ」として、このワインを別格視するに至りました。

ところが、実際の平均樹齢は20~25年程度、最古のブドウでも50年少々(下記New York Times参照)でしかありません。どういうことなのでしょうか?

正規輸入品でも実売価格が1本10万円前後もしますし、超希少品でもある。ワイン愛好家が一生に一度飲めるかどうかといった類のラグジュアリー商品でありながら、過去に与えられた不正確な情報ゆえに生じたと思われる消費者の誤った認識や、一部のワインショップの以前からの誤解を受け易い情報を垂れ流した状態を考えると、大きなギャップを感じてしまいます。

「過去に」と上述した理由は、2006年から正規輸入元になったアルカンさんはこのような誤解を招かないような表現に努めており、かなりの人がこのワインに過度な期待・幻想を持たずに済んでいるかもしれません。しかし、樹齢のことをお尋ねしたところ、ヴィエイユ・ヴィーニュ フランセーズ(VVF)の名称について、生産者であるボランジェの見解は「フィロキセラの害をうけていない畑で接ぎ木ではなく取り木で昔ながらの伝統的な作り方をしているワインといった意味を込めている」とのこと。今後も継続して公開する情報をブラッシュアップしていく必要がありそうです。過去に刷り込まれた誤解を上書きするにはかなりの時間がかかるでしょう。アルカンさんは取り扱いを続ける限り、このワインの日本市場での根本価値・付加価値の両方を再構築していく責を負っているわけです。

これまでに不正確・曖昧な情報の垂れ流しを看過(もしくは主導)してきた流通業者・ワイン学校・メディアなどは市場に与えた悪影響の責任を負うべきかもしれません(責任の取り方は色々あるでしょうが)。また「グラン・ヴァンには神話/伝説がつきもの」的な誤った判断を是正していけるよう、業界全体で取り組んでいただきたいと思う次第です。

最後に、私がこれまでに2度ほど飲むことができたVVF('79と'89)はどちらも素晴らしい美酒だったことを加えておきます。

※本稿に際し、現在の正規輸入元であるアルカンさんに相談に乗っていただきました。この場を借りまして、御礼申し上げます。

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