2010年6月22日火曜日

レストランの経営戦略とその効果(株式会社ひらまつ編~その4(最後))

間に別のネタのエントリーを挟んでしまいましたが、株式会社ひらまつのブランド戦略の改善余地を考えてみたいと思います。

ブランド価値自体を計る明確な指標はありませんし、それを推し量る定量データが開示されているわけではありませんが、2010年9月期 第2四半期決算説明資料に各ブランドの平均客単価(夜)が記載されていました。
















ひらまつはコーポレートブランド、ASOはそれに続く位置づけとミシュラン2つ星という実績からも「ツートップ体制」と言える単価設定と言えるでしょうか。ですが、インポート・ブランド4つ(ボキューズエーベルランプルセルD&D LONDON)はどうでしょう?

ボキューズは本国では知らぬ人がいない有名シェフで、料理人として初めてレジオン・ドヌール勲章を授かり、リヨンの本店は44年連続でミシュランから三ツ星の評価を受ける大グラン・メゾンです。ジスカール・デスタン大統領に捧げたトリュフのスープやスズキのパイ包み ソース・ショロンなど、コアなフレンチ好きなら誰でも知っている必殺のスペシャリテを持っており、フランス料理のグラン・シェフとして時代を超えて頂点を極めた1人だと言えるでしょう。

そんなボキューズ・ブランドを日本に引っ張ってきた平松社長の人脈と手腕は素晴らしいと思いますが、日本での展開には個人的には疑問を抱いています。

ボキューズの署名が入ったようなスペシャリテを常時食べることができる代官山の「メゾン」や金沢の「ジャルダン」はともかく、「ブラッスリー」はわかりにくい。そもそもブラッスリーという業態の定義が日本では非常に曖昧だし、トップラインが定着してからブラッスリーをやるのならともかく、一気にここまで展開してしまうとトップラインの価値が希薄になります。ブラッスリーという業態が定着しているフランス現地とフランス料理の王様「ボキューズ」の組み合わせには必然性が感じられますが、日本ではまだそれぞれのブランド価値も高まっていないし、十分な訴求もできていないように思います。

さらに、ボキューズのトップラインの東京地区でのロケーションに関して言うなら、歴史を考えれば、ひらまつが代官山という土地に思い入れがあるであろうことは想像できますが、2010年現在の代官山は、活気と先進性に乏しく、またメゾン・ボキューズのお客が集まるような街では無いような気がします。近くに住んでいる地元の人が常連だというのなら話は別でしょうが・・・ポール・ボキューズというブランドの価値を国内でさらに高めたいのであれば、銀座Velvia館にD&D LONDONのICONIQの代わりにメゾン・ポール・ボキューズを出すべきだったのではと思います。

D&D LONDONのことにも触れておきます。
テレンス・コンランは国内では「コンラン・ショップ」や森ビル関連の施設デザインなどで認知を得ているライフスタイル・プロデューサー(?)とでも言いましょうか。D&D LONDONはテレンス・コンランが経営するレストラン事業会社兼ブランド名で日本ではひらまつがブランド使用ライセンスを取得して各店を運営しています。

私はD&D LONDONブランドのお店はアイコニックもボタニカも行ったことが無いので、偉そうなことを言える立場では無いのですが・・・敢えて言うなら、テレンス・コンランというブランドをひらまつが担ぐことの意義がよくわかりません。平松氏は経営者であり、「ひらまつ」のブランドマネージャーであり、料理人です。この「料理人」という部分の根っこがしっかりしているから成功したと思っています。

しかし、テレンス・コンランという人は自身は料理人では無く、デザイン畑から成功したビジネスパーソンです。テレンス・コンランという人がレストランを経営する必然性はそれなりに感じますが、その根っこはあくまでもデザインであり、夜の客単価が13~16千円という高額な食事代の本質(原価)はどこにあるのか問えば、ひらまつの方はどう答えてくれるでしょう?。

私は、ブランドの価値はどこか1つ突出した個性のみによって成り立つものでは無いと思っています。クオリティ・レストランという非日常空間で美味しい料理を最高のサービスでいただく、ということを考えれば、レストランのブランドの価値は基本的に各要素の掛け算で得られるのではないか、と思っています。例えば、以下のような感じです。

・料理:90%
・内装・雰囲気:70%
・サービス:80%

ここでいうパーセンテージの意味は、ブランドバリューやコンセプトが各要素にどの程度具体的に反映されているか、ということです。上記の例であれば、トータルでは・・・

0.9(料理) x 0.7(内装・雰囲気) x 0.8(サービス) = 0.504 = 50.4%

50.4%しか、ブランド価値を訴求できていないということになるのではないでしょうか(もちろん、人によって優先順位は違いますし、それによって係数が変わります。料理を重視する人であれば、そこの係数(比重)が大きくなるでしょう)。

D&D LONDONが料理に注力していないとは思いませんが、D&D LONDONの本質を伝える中心は料理では無いと思っていますし、ICONIQの総料理長をリストランテASOの阿曽氏が務めていることを考えると、やはりD&D LONDONからインポートするブランド価値(ノウハウ・スキル含む)だけでは日本の市場では通用しないということを実感しているのでしょう。ボキューズにしても然り。料理はボキューズのレシピを再現するにせよ、ボキューズの本質を表現した内装・雰囲気、サービスが無ければボキューズを訪問する意味が薄れると思うのです。

ちょっと古い統計データですが、Gooリサーチにこんなデータを発見しました。

・「行きつけの店」の条件~普段使いの店














・「行きたくなくなる店」の条件~普段使いの店














・「特別な外食」の際の店の選び方














・「特別な外食」で行きつけの店にする条件


ひらまつが展開するお店の多くは「特別な外食」ですが、普段使いの店に対するアンケート結果も大いに参考になる部分があると思います。これらを見ても、お客様が店に行く/行かないは特定の要素だけに判断基準があるわけではなく、複数ある判断材料から自分なりに優先順位をつけて判断していることがわかっていただけると思います(正直、アンケートの選択肢には不備・不足があると思っていますが・・・)。

これらのデータと「ブランド」というものを合わせて考えると、「料理」を最大限重視し、さらに口コミが拡がる過程で店の本質が変わった形で伝播することが無いよう、全方位からブランドの個性・スタイルの一貫性を確立し、訴求しなければブランド価値を落としてしまう可能性が高い、という結論が得られるのではないでしょうか。

各インポート・ブランドのライセンス使用料や契約期間がどうなっているかは知りませんが、そういった諸々も支払う値段に反映されていることを思えば、「ブランド・マネージャーの露出機会を増やす」といった揮発性の高いイベントだけでブランド価値を高められるとは思えません。

上記ではボキューズとD&D LONDONを取り上げましたが、エーベルランもそのコンセプトの代弁者である日本人シェフの認知度が低すぎます(プルセルは長谷川シェフがボキューズドールのアジア代表になるなどで認知度が上がりましたね・・・十分とは思えませんが・・・ひらまつがHPをリニューアルした際に、長谷川シェフの露出は減ってしまったように思いますし)。常時、店をリードするシェフがしっかりブランドの価値を基礎から高めていくことが最も重要だと思っています。

なお、各インポートブランドの売上への貢献の程度はわかりませんが、2009年9月期 有価証券報告書に以下のようなデータがありました。






















フランス料理事業本部:6,235,566千円(14店舗、3ブランド)
イタリア料理等事業本部:3,901,044千円(7店舗、2ブランド)

このように比較してみると、イタリア料理等事業本部のほうが経営効率が良いように見えます。ブランドという観点から見て、生産性の低いブランドがあるならば、契約期間内は精一杯その価値を高める努力をして、それでもダメなら契約更新しない、という判断が必要な時が来るかもしれないと思ったりもします(そうならないよう頑張ってほしいです)。

    2010年6月19日土曜日

    サービス業の生産性は製造業の60%???(その2)

    前のエントリーからの続きです。

    実際の所、一般的に飲食業の労働生産性は相当に低いと思います。心当たりのあるお店は早めに手を打たないとさらに下がる可能性すらあると考えています(再度、労働生産性の定義をご確認ください・・・こちらの情報の方が具体的かもしれません)。

    労働生産性 = 付加価値(売上高)/従業員数

    労働生産性を式で表すとこんな感じでイイと思います。右辺の分母が1か月の労働時間であっても、また、分子が利益額、あるいは来客数であっても、分子が分母の大きさに見合った程度にならないと、労働生産性を高く維持することはできない、ことは明白です。

    余談ですが・・・
    日本フードサービス協会の統計によれば、ディナーレストランに分類される外食業態では2010年4月の売上は前年同月比100%を達成していますが、本当に久方ぶり。5月はGWもありましたし、6~7月はサッカーのワールドカップの影響もあるでしょうから、予算を達成するには具体的な努力が相当必要でしょう。

    従業員数を減らす、あるいは従業員の給料を減らす(非正規従業員を雇うことを含む)ことで分母の値を小さくできますが、それでは、前エントリーに書かれた【低い生産性の要因と思われるもの】の2つ目に挙げた「生産性の低い産業においては人件費等を低く抑えるために非正規雇用を多用し、生産性が低い状態から抜け出せない」シナリオにそのままハマってしまうことになります。

    もちろん、分母を小さくするための努力はポイントを時には必要ですが、それが何に影響を与えるかを常に意識しなければなりませんし、この負のスパイラルからは抜け出すには分母を小さくするだけでは無理です。並行して、分子を大きくするための取り組みを行うことが重要です。そのための施策として客単価を上げることについてはここでは述べません。ここでの私の主張は無料で使えるツールや情報が多い、IT/Webを活用しての集客/見込み客の醸成にトライすべきだ、ということです。

    労働生産性は1つの指標に過ぎないというご意見もあるでしょう。それよりも重要なこともあるでしょう。ですが、日々の売上や来客数といったデータに一喜一憂するだけでは、改善案は見えてこないのではないでしょうか。労働生産性など、お店の経営の状態をジャッジするための指標を取り入れ、お店を経営するにあたっての優先順位と評価基準を明確化して、初めて「今月はまぁまぁ」といった言葉が真実味を帯びるのではないかと思います。お客さんの満足度にしても、「美味しかったよ」と声をかけてくれる人が今日はいた/いなかったの問題ではなく、来店客の何パーセントが満足してくれたのか、といった具体的な数値を意識しなければ、V字回復の手がかりなど見えてくる筈がありません。

    「クオリティ・レストランは効率のみを追求するものにあらず。品質や顧客満足を重視すべきで、商売・ビジネスは二の次だ」とおっしゃる経営者もいらっしゃることは理解しています。それを踏まえても、ビジネスの成果(アウトプット)を出すこと、労働生産性を向上させるために、積極的に集客活動をすることに対してもっと力を注いでみてはいかがでしょうか。料理を作る技術とサービスさえ良ければお客が来てくれる・・・なんてことはありません。職人としてのスキルが高いことは前提でしかなく、それに加えてビジネスセンスが感じられないお店にはお客はそっぽを向いているのが実態だと思います。

    以下の図は、Google日本法人の名誉会長である村上憲郎氏が「日経ビジネスアソシエ 2010年2/16号」に寄稿した資料を私なりにデフォルメしたものです。


    村上氏は「ムダ撲滅の第一歩は完璧に拘らないこと」という趣旨で述べていましたが、完璧に拘りがちなクオリティレストランの生産性向上に向けての有効解の1つではないかと思い、掲載しました。この図では以下のことを記述しているつもりです。
    • 一定時間仕事をしてもそこから得られるビジネス成果は80%が限界であり、そこを起点に100%の成果を得ようとしても、倍の時間をかけてもそのレベルに達成できる保証は無いということ。
    • だとすれば、仕事Aの成果は80%のレベルで提供し、さらに時間をかけようとしていた部分で他の仕事(仕事B)をして、そこで80%の成果を出す方が組織全体のアウトプットとしては大きくなる(160%のアウトプットが得られる)。
    思い当たるフシはありませんか?

    あくまでも私見であり、自分の過去の経験から思っていることですが、生産性の低い仕事をしていると、自分の周りにいた生産性の高い取引先との距離は拡がってしまうような気がしています(漠然と、ですが)。生産性の問題は決して自分が所属する組織の中だけで閉じた話だけではなく、外部と繋がっているという意識を持って生産性向上に取り組むべきなのかな、と思っています。

    重複する内容を何度も書いてしまい、読まれる方はウザイと感じられたかもしれません。その点についてはお詫びを申し上げますが、最後にシツコクもう一言・・・

    飲食店の生産性は料理を早く作ることを追求したり、コストを抑制するだけでは向上しません。多くの客に多くの満足を提供しなければ生産性は向上しないのです(生産性の式における右辺の分子を大きくする)。空席が常にあるような状態では労働生産性は低迷したままです。労働生産性を上げるための大きなポイントとして集客が大きな位置を占めるということをご認識ください。

    Webマーケティングは正に上図における仕事Bなのです。これに取り組むことで確実に集客と顧客関係を向上させる切り札的な位置づけになり得ます。私もしっかりとサポートさせていただきますのでどうぞお気軽にお問い合わせください!

    ※このエントリーを書きあげるのには必要以上に時間がかかってしまいました。論理構築能力の不足を感じました・・・。

    2010年6月18日金曜日

    サービス業の生産性は製造業の60%???

    先日、東京経済政策研究会(TSEP)の勉強会に参加させてもらいました。

    このテの話に滅法弱い私は多少は予習していきましたが・・・詳しい話はさておき(汗)、話の流れで出てきたネタが気になりました。


    -- 日本のサービス産業の生産性は製造業に比べて60%程度しかない --


    日本の製造業においてはカイゼンなどに代表されるように、生産性を高めるための取り組みが長い間行われており、実際、世界トップの生産効率を誇っています。サービス業(∊ サービス産業)については、それほど高くないだろうなぁとは思っていましたが、まさかそれほどとは・・・と思い、その元ネタを会の主催者の方から教えていただきました(三四郎さん、ありがとうございました)。
    ※なお、本エントリーは外部へのリンクが大変多くなっています。そちらを必ず読まれることをお薦めします。


    このレポート中には、「我が国のサービス産業の生産性は総じて低く、特に、就業者数が多く集中する業種(建設業、卸売・小売業、飲食・宿泊業、医療・福祉、その他サービス業)の労働生産性は、他の産業に比べて低い。」との記述があります。


    【低い生産性の原因と思われるもの】
    1. 生産性の低い産業(ex.飲食業)から高い産業(製造業)へ経営資源が移動しない
    2. 生産性の低い産業においては人件費等を低く抑えるために非正規雇用を多用し、生産性が低い状態から抜け出せない
    3. IT利活用の低さ(★)
    4. 新陳代謝の不足
    5. 競争環境の未整備
    6. 人口密度(需要密度)の問題


    さらに、他の関連するネタを探したところ、以下のような統計情報もありました。

    これらを読むと、確かに「サービス産業は日本の基幹産業である(GDPの68%!を占める)にも関わらず、製造業よりも労働生産性が低い」と読めます(あくまでも労働生産性に関する比較です)。



    必ずしもそうとは言えないとする論もありますが、全要素生産性TFP)を中心としての話であり、また経産省のデータとは分析の粒度が違っていたり、論者の意図に左右される部分も大きいと思います。



    さらに、別の資料からIT利用が生産性に与える影響についても言及されていました。以下の図はその抜粋です。

    IT業界に長く身を置いてきた人間として、左記のデータは大いに納得するところです。ただ、このブログは、経済構造の問題を考えることも、サービス産業(もしくはサービス業)全体の生産性向上に対する提言をすることも目的とはしておりません(そんな大それたことはできません)。

    いずれにしても、ここまでの情報を読んで、なるほどサービス産業(あるいはサービス業)はやはり生産性が低く、そこが不景気脱出のボトルネックになっていることはよくわかりました。もちろん、飲食店ビジネスはサービス業に属するわけで、これらの情報と私の経験を加味し、あくまでもクオリティ・レストランに関係する方々への何らかの示唆になり得るように、何らかの形でまとめていきたいと思います。

    つづく

    2010年6月11日金曜日

    レストランの経営戦略とその効果(株式会社ひらまつ編~その3)

    ひらまつと言えば、10万本とも言われる豊富なワインのストックも大きな魅力の1つです。
    2008年5月から「ワインプライス革命」と称し、店で提供するワイン価格の値下げ施策を開始しました。
    以下は2008年9月期の決算説明会資料の抜粋です。

















    この資料の通りであれば、ワイン好きの人にとっては大変喜ばしいことです。

    ということで、特定の銘柄のワインについて、ポール・ボキューズのトップブランドである代官山の「メゾン・ポール・ボキューズ(MPB)」と金沢の「ジャルダン・ポール・ボキューズ(JPB)」、そして同ブランドのディフュージョンラインの「キャーヴ・ド・ポール・ボキューズ(CdPB)」を比較してみました。

    さらに、ワインの品揃えで有名な東京の「アピシウス」、そして小売店との比較として、楽天市場の最安値と最高値も加えて比較したものが以下の表ですワインは、日本市場で有名で、一般的な流通量が多く、高級レストランを経営するひらまつグループの中でも価格面でヴォリュームゾーンに相当しそうなものを選んでみました(サンプル数が少ない点はご容赦を)。






    ご覧の通り、この4つのワインは消費者から見た場合、「一般的な市場価格」と差が無いレベルまで下がっているとは思えません。シャンパーニュ2銘柄については、正規輸入代理店の国内希望小売価格とそれほど大きな差が生じていませんが、それはアピシウスでも同様でした。

    また、同じ銘柄であっても、金沢(JPB)と東京(MPB)では価格差があるものと無いものがありました。一方で、同じ東京地区では、ファーストラインであるMPBとセカンドラインのCdPBで価格差がありません。

    ちなみに、2008年9月期の決算報告会での平松社長の本施策に関する発言を私なりにまとめてみました。

























    私の解釈が間違っている可能性も無いわけでは無いですが(その場合はスミマセン)、これらの情報をまとめて、ちょっと下世話な見方をすると・・・
    • 上記シャンパーニュ2銘柄は正規代理店から戦略的で優遇された価格で卸されている?
    • ひらまつがこの施策を打ち出す以前に仕入れた銘柄についてはあまり価格を下げていない?
    • 標準小売価格がある商品については、それとの差を小さくしてオンリストしているが、オープン価格のものについては、あまり・・・?
    • 通常、卸問屋/小売店からレストランが仕入れる場合の価格と一般消費者が購入する価格は結構な差がある。そのため、卸問屋/小売店→ひらまつの\2,000/本をリファレンスにする必要が無いという考え方?
    • 同一地域内、同じブランド内ではファーストライン/セカンドラインを問わず価格を統一?
    など、素人くさい推察ができますね(汗)。
    なお、ワインの輸入についてはグループ企業であるHIRAMATSU EUROPE EXPORT SARLが行っているようですね。とすると、少しは中間マージンが乗った価格で株式会社ひらまつには入ってきているという気がします(そんなこんなを考えると、やはり日本のワイン輸入の関税をもう少し下げて欲しいと思ってしまいます)。

    改訂前の価格については、確かにちょっと高かったと思います。ただ、今のワインリストを見て、以前とそれほど差は無かったような気がするのは・・・きっと、気のせいでしょうね(苦笑)。

    いずれにしても、流通面では他店に対して明らかにアドバンテージを持っているわけですから、消費者が十分に「ワインプライス革命」に魅力を感じ、かつお店側も売上増・利益増に繋がるよう、さらなる価格戦略が必要なのでは、と思います。

    2010年6月9日水曜日

    レストランの経営戦略とその効果(株式会社ひらまつ編~その2)

    ひらまつの分析(のようなもの)の続きです。

    ウェディング事業については、会社やレストランの各ブランドのサイトとは別に独立したウェディングサイトを立ち上げています。これはLPO(ランディングページ最適化)対策と「レストランウェディングといえばひらまつ」というブランド確立を目的として行われたものでしょう。

    • LPO(ランディングページ最適化)とは
      • ランディングページとは検索サイトや広告などからリンクされ、最初に表示されるページのことです。
      • 訪問者はランディングページを見て「自分が欲しい情報が無い」と判断すれば、他のサイトに移ってしまう(離脱/直帰)するわけですから、検索キーワードと整合性の高いページ(タイトルやmetaタグ、テキスト内容など)にし、サイトの目的ページ(例えば、予約ページ)に効率的に導く必要があります。
    前のエントリーで書いたように、既にひらまつの売上の40%以上をウェディングが占めるわけですから、コストをかける価値があります。そのことをこのサイトのソースが示しています。





    上図の部分では有料で非常にパワフルなアクセス解析ツールである「Visionalist」によるトレース採取が実行されていることを示しています。

    一方で各レストランブランドのサイトには「Visionalist」どころか無料のアクセス解析ツールのトラッキングコードすら埋め込まれていません。サーバーに蓄積されたログをダウンロードして直接解析している可能性も無いわけではありませんが、そんなに専門的な技術が必要なことをやっているとは思えません。ということは、レストランの一般利用については・・・
    • 多数の会員に対するCRMにより十分なリピートがある
    • ウェディングの招待客に対しても一般利用促進策を実行しており、十分に機能している
    • よって、一般利用の見込み客の分析やそれに基づくWebマーケティングは特に必要は無い(現状で十分)
    という風に割り切っているのかもしれません。ウェディングで来店するお客は比較的若い年齢層の方も含まれるため、次世代のアクティブユーザーを育てることにも寄与しているでしょう。この仮説が正しければ、集客導線としては非常に効率的にデザインされたものだと思います。

    続く・・・かも。

    レストランの経営戦略とその効果(株式会社ひらまつ編~その1)

    自分がお手伝いしたお店のことなら大体は把握しているつもりですが、それも契約期間内での話ですし、ブログで公にお話しできる内容には具体性が乏しくなってしまいます。

    ということで、「そとの人()が公開されている無料情報からどこまでレストラン経営戦略とその効果を把握できるか?」にチャレンジしてみようと思い、このエントリーを書き始めました。

    このブログ全体の文脈からすれば、アクセス解析と店舗オペレーションデータの分析など踏まえて書きたいところですが、これらをすっ飛ばすわけですから、あくまでも「感想」とか公開されている情報の再紹介といったレベルで終わる可能性が大ですが・・・とにかく頑張ってみます。

    ※経営者の方にとっては大きなお世話どころか事前にお断りもせず申し訳ありませんが、内部情報や巷の噂は一切含まない内容であることをお約束しますので、ご了承ください。

    第1回目は恐れ多くも、クオリティレストランの勝ち組である(?)、「株式会社ひらまつ」を対象にして始めます。
    • 株式会社ひらまつ(IR情報はこちら)とは?
      • 1982年にオープンした西麻布「ひらまつ亭」に端を発し、フランス料理とイタリア料理を中心にしたレストランを経営。94年に株式会社化、2003年にジャスダック、2004年に東証2部に上場。
      • 株価:\83,400(2010/6/8 12:42時点)
      • 従業員数:518名(2009年9月末現在)
      • 売上高:101億円(2009年9月期)
      • 経常利益:10.37億円(2009年9月期)
      • 保有ブランド/店舗数
        • レストランひらまつ(ミシュラン東京☆):5店舗
        • リストランテASO(ミシュラン東京☆☆):5店舗
        • ポール・ボキューズ:8店舗
        • エーベルラン:2店舗
        • プールセル:1店舗
        • D&D LONDON:2店舗
        • その他(カフェ):4店舗           ・・・など

    ※お会いするレストラン関係者の方にはいつも申し上げるのですが、上場企業のIR情報はいつでも見られるのでご覧になることをお薦めします。

    リーマンショックこの不況下において、非常に素晴らしい業績をあげています。
    つい先日も金沢市に「ジャルダン・ポール・ボキューズ」を開店させ、さらに来年秋には福岡市にリストランテASO2013年には大阪・中之島にD&D LONDONを除く全ブランドを集めたグランメゾンのオープンを予定しており、2015年には現在の売上の2倍となる200億円を目指しています。

    この攻めの姿勢の背景は以下の情報から理解できます。
    見る人によっては違う点に着目し学ぼうとする人もいるでしょうが、これらの情報から私が重要だと感じたポイントは以下の点です。
    1. 持続的な安定成長
      • ステークホルダー(顧客/株主/社員)に対する満足提供のために進化し続けていく
      • 収益を確実に確保できる物件のみを厳選し店舗展開
    2. 理念に基づくブランド戦略の徹底
      • ブランドマネージャーの露出強化など
    3. 確たるコアバリュー(料理)に基づくマーケティング・営業施策
      • 送客チャネルの拡充とCRM利用促進など
    4. お客に対する高い満足提供への拘り
      • 時代に沿った高価値の提供と全ての顧客接点において高品質な一貫性
    5. 徹底したコスト削減
      • 特に販管費
    こういったことが高い精度で組織的に実行されたことがこの時代においても増収・増益を実現している事実に繋がっているのでしょう。

    売上の40%以上を占めるウェディングについて見てみます。
    人口動向や晩婚化といった傾向から婚礼数は減少傾向にあり、景気からの影響が強い消費イベントです(※1※2)。ひらまつは既に小人数での個室プランといった施策も出していますが、いわゆる披露宴と比べると1回あたりの売上は確実に落ちるので成約数を増やさなければ売上は維持できません。成約数を増やすということはそのための直接・間接のコスト・労力がかかりますから、より効率が重視されますね。

    SEO対策の観点からひらまつのウェディング事業を見てみます。
    Googleキーワードツールを使って「レストランウェディング」とそれに近いキーワードの月間検索ボリュームや検索上位に表示させるための競合度を確認すると・・・



    • ウェディング:823,000(!)
    • Wedding:673,000
    • レストランウェディング:33,100
    • レストランウエディング:40,500
    キーワード検索における競合度は大変に高いということがわかります。このことから、ひらまつ自身はウェディング専業者とぶつかる戦略は採らずに、「レストランウェディング」というキーワードでの勝負を挑むはずです。そしてウェディングビジネスの消費主体が女性であることを考えれば、国内の検索エンジン利用シェアが高く、女性ユーザーが多いYahooで「レストランウェディング」の事業主としてのひらまつをアピールする、と・・・結果は以下の通りです。
    この結果を見れば、見事な選択と集中ぶりだと思いませんか。クリック広告に多少の投資はしているかもしれませんが、限られた販管費の中で十分な効果を得ていると推察します(なにしろ、年間の成約数は順調に増えていて、見学に来てくれたカップルの40%以上がひらまつでウェディングイベントをやるわけですから)。

    ひらまつにとっては、自店のHPのSEO対策だけがネット上でのマーケティング活動ではありません。数々のブライダルエージェントも営業チャネルとして機能していることを考えれば、しばらくの間はひらまつは日本随一のクオリティレストラン兼レストランウェディングの事業主の地位で在り続けるのではないでしょうか。しかも、レストランの一般利用と異なり、ウェディングは事前にスケジュールが厳密に決まりますから、1日に何組も披露宴があるようなハイシーズンでは通常のレストラン業態では達し得ない坪効率、1日あたりの売上を実現するのかも・・・うーん、ひらまつ恐るべし。

    後日に続きます。

    2010年6月7日月曜日

    永ちゃんに学ぶ


    2010/6/6に行われたUSTREAMでの糸井重里さんと矢沢永吉さんの対談「お金のことを、あえて。矢沢永吉×糸井重里 素人社長会議」をご覧になりましたでしょうか?

    私はほとんど観られませんでしたが、永ちゃんの「エンターティナー兼ビジネスマン」としての在り様、明快さ、そして意外と言えるほどのインターネット/ソーシャルメディアに対する感度の高さを感じさせてくれた点が印象的でした。彼ほどの人ですから、彼の周囲には優れたビジネスブレーンがいるのは間違いないですが、このイベントが彼を従来とは違った観点からの「旬の人」として認知せしめ、ブランド価値をさらに高めたことに成功したのは間違いありません。

    露出の度合いの問題では無く、露出効果のある場所をちゃんと選び、自分の根源価値を違った観点から見せることで他のアーティストとの個性の違いを際立たせ、新鮮さを維持する・・・

    飲食店も大いに見習うべき姿勢のような気がしました(もちろん、私も)。

    2010年6月4日金曜日

    イベリコ豚の幽庵焼きは日本料理か?

    私は原理主義者ではありませんし、偉そうに○○料理の定義を述べるためにこのエントリーを始めたわけでもありません。

    飲食店とお客との関係形成の中心に料理が存在することを考えれば、
    • 作り手はその料理をどういう意図で作ったのか
    • それが食べ手に明確に伝わるよう加工・調理されているか
    • あるいは、その意図をきちんと食べ手に伝えているか
    などが重要なのではないか、というエントリーです。

    多くの人は、自分が言いたいことをストレートに口にできればそれに越したことは無いと思っていると思いますが、そうはしません(人間関係を崩す引き金になる場合がありますし・・・)。ですが、自分と正反対の意見に対してウンウンと相槌を打つ時の自分に対するあの気まずさは堪りませんし、話をしている相手も「こいつ、適当に相槌打っているだけだな」と薄々勘づいているはず。場合によっては、相手は「こいつのことは信用できないな」とさえ思うかもしれません。ところが、ある意味でレストランではそうしたことが平然とまかり通っている空間のような気がします(何を食べても何を聞いても「美味しいです」としか言わないお客の多いこと・・・)。

    レストランのダイニングにおいて、料理は店と客との関係形成の中心に位置するものであり、かつ、来店客がリピートを促すものとしてコミュニケーションが重要であるという前提に立てば、お店とお客の間で料理に関する腹を割った適切なコミュニケーションがなされないのは致命的であると言えるでしょう。「口に出さずとも分かって欲しい」、「分かる人だけ分かれば良い」、「受け取り方は食べ手の自由」というのはお店の怠慢やコミュニケーション能力不足に他ならないと思います。

    イベリコ豚という食材で幽庵焼きにする必然性を食べ手に説明したり、あるいは幽庵焼きと言いながら実はペーストは洋食材で作り、盛り付けを和風にしたものだ・・・などの情報を予め伝える必要があると思うのです。この料理の名前だけならどっち付かずの印象は否めませんし、必ずしもお客に期待を抱かせるものでは無い場合もあるでしょう。

    お客に提供する前にそういうメッセージを伝えないことは、食べ手と料理人とのコミュニケーションは成り立たないと思うのです。まるでそれぞれ勝手に独り言を言っているだけ。それで「思ったような反応が返ってこない」、「わかってくれない」とか「食べログの評価が低い」と嘆いても、それは後の祭りではないでしょうか?

    ソーシャルメディアが生活の中心に位置するようになった現在、自分から心を開き、適切な表現でメッセージを出し、それに対する反応を正面から受け止める姿勢を見せなければ口コミによる良い効果など得られるはずが無いと思います。

    2010年6月2日水曜日

    レストランにとっての見込み客(その2)

    例えば、アパレルブティック(実店舗)で買い物をする場合の消費者の行動は
    1. 店に行く
    2. 店内の商品を見て回る/お店のスタッフとのコミュニケーション
    3. 試着する
    4. 購入するかどうかの判断
    というフローが多いのではないでしょうか(もちろん、予めWebやマスコミなどからの情報を基にした後に「店に行く」かどうかを決めるプロセスもあるでしょう)。

    消費の意志決定をするまでに直接、商品のサイズや着心地などを確認でき、しかもスタッフからのアドバイスも受けられる、ということは消費者にとって大きなメリットです。お店側のから見ても、接客を通して見込み客のフィルタリングや購入意思を高めるための働きかけ、そして何といっても商品に付帯する多くのコンテキストを含めた総合的な満足を顧客に提供することができます。

    一方、飲食店はお客が来店するということは即、消費(売上)に繋がります。上記の順序で言えば、一度も来店したことが無いお客様に対しては1~2は現場で行えませんし、3の試着に相当する体験を提供する飲食店は無いに等しいと言えます。これらのことから、飲食店は、少なくともアパレルブティックとの比較においては、「見込み客との直接コンタクト」や「見込み客を育てる」といった点で明らかに見劣りする戦術しか実行できていないと言えます。

    ゆえに1~3を色々な手法を使って「トライしてみる」ことが重要です。私はもちろん、無料でできる取り組みとしてWeb、ソーシャルメディアを活用することをお薦めします。

    例えば、Twitterを使って「自店の見込み客に直接コミュニケーション」して「見込み客を来店客に育てた」事例としては既に牛角の西山社長が有名です。短期的な視点では実際の経営へのインパクトは小さいですが、さらに発展させられる余地があると考えます。

    また、個人的にはレストランHPでのメニューの掲載の仕方はかなり改善余地があると思っています。例えば、「海亀のコンソメスープ」ならまだ見た目のイメージができますが、「エイとキャベツ」、はたまた「仔羊のマリアカラス風」という料理名と値段を載せるだけで読み手にどれだけの訪問を喚起させられるでしょうか?(ご存知の方にとってはどれもシェフの顔と署名が見えるような素晴らしいマスターピースですが・・・)。

    実店舗への来店の際にはサービスの方がメニューの説明をしてくれるわけですが、上記のアパレルブティックとの比較を考えれば、メニュー選びという来店客の最大の楽しみの一つをWebで行え、店の個性を効果的に伝えられるような工夫をしなければ、訪問に対する強い喚起(=見込み客の醸成)には至らないのではないでしょうか。少なくとも私は今の多くのレストランHPのメニューは手抜きだと断じます。

    ミシュランや食べログ、ザガットなどの普及で単純で定量的な比較は簡単にできるようになりました。しかし、あの店やこの店も星を取り、また食べログで3.5ポイント以上を取るようになった現在では、そこにあまり大きな価値が無いことはレストラン経営者もコアな飲食好きの方もとっくにわかっています。

    もっと自店の個性と本質的な価値を再確認し、それを適切な形で訴求しなければ、本当の意味での差別化はできないし、見込み客を掴むための戦略もブレてしまいます(コアなファンも育ちません)。

    出口の見えない不況の真っ只中、できることはもっと積極的にやっていきませんか?