2011年1月12日水曜日

Festivin(フェスティヴァン) 2010 ~ そのココロを問う

20101127日に自然派ワインを愛する人のお祭り「Festivin」が開催されました。

発起人は、豪快な料理と自然派を中心とした豊富なワインのラインナップで多くの方から指示されている六本木の祥瑞、銀座のグレープ・ガンボのオーナーである勝山晋作氏
私はグレープ・ガンボに何度かお伺いしたことがあったのですが、勝山さんとは面識が無く、今回のFestivinというイベントの存在もTwitterを介して知りました。

会費がワインだけで\6,000-という値段で食事代は別、立食スタイルで割高な感じもし、このイベントのコンセプトを理解することが出来ず、友人と「行く?」、「いや~、どうなんだろうね?」などとTwitter上で知人と否定的なやりとりをしていたことが勝山さんの知るところとなりました(汗)。

これをきっかけに、勝山さんがどういう思いでFestivinというイベントを主催し、その結果に対してどのように感じているのか、また自然派ワインに対してどのように思っているのかなどを聞かせてもらいたいと思うようになり、Festivinが終わり、少し落ち着いたと思しき頃、銀座のグレープ・ガンボに勝山さんを訪ねました。勝山さんご本人の掲載許可をいただきましたので、やりとりの様子をこのブログで記載したいと思います。




私:私は結局、Festivinにお伺いすることができなかったのですが、多くの人がTwitterやブログに書かれている内容を拝見すると、大変な盛り上がりだったようですね。結局何人くらいの方が来場されたのですか?

勝山氏:まだ集計し切れていないのですが、多分、1,0501,100名くらいの一般客の方に来ていただいたんじゃないかと思います。今回使わせてもらった会場はアパレルのバーゲンなんかで使う場合は1200名くらい収容しているらしいですけれどね。

私:それは凄いですね。写真で見ていてもお客さんみんなが本当に楽しかったんだろうな、というのが伝わりました。

勝山氏:楽しんでもらって良かったと思います。色々な人からポジティブなフィードバックをもらいました。私自身、こういうイベントを企画するのは初めてだったし、最初は一人だったのでやるまでが本当に大変だったので終わってホッとした、良かったな、と。賛同者や知人、ボランティアの方々に色々と助けてもらって何とか無事に終えられたという感じです。

私:参加団体の方々からの反応はいかがでしたか?

勝山氏:やっぱり、「やって良かった!」「凄く良かった!」「楽しかった!」「飲んだ~!」ですね(笑)。今回のイベントは一般客の方だけに向けてのものではなく、インポーターさんや小売店さん、飲食店として参加された方、遠くから来ていただいた国内外のワイン生産に携わる方々を含めたみんなが一緒に自然派ワインをテーマにしてとにかく楽しんでもらいたいというお祭りでしたから。

私:少し、勝山さんご自身のことをお伺いしたいのですが、勝山さんは麻布ナショナルマーケットでアルコール全般のバイイングをなさっていたんですよね?

勝山氏:そうです。当時はハードリカーが全盛の頃でした。他店では扱いの無いようなポーランド産のウォッカやアクアビットなんかもやっていて、特に広告宣伝の類はしませんでしたが全国のバーやホテルなどから注文がありました。

私:ワインについてはどうですか?

勝山氏:当時はドルーアン、ルイ・ジャド、ルイ・ラトゥールなどの大手ネゴシアンのワインをやはり比較的大きなインポーターが扱っていて、大きなホテルなんかはそういう所のワインばかりやっていましたね。そういうワインをウチもやっていましたけど、当時は今よりも隙間が多かったですね。そういう意味でも商材には困らなかった。

場所柄もあって、外資系金融企業や教会などからどんどん注文が入って売れていくものだから、12月だと1日に200ケースくらい仕入れていました。とにかく量をさばく、たくさん売ることが楽しかったですよ。フレンチの大御所の方のお店ともお取引させてもらって、色々な話をさせてもらったのも勉強になりました。

私:なるほど、前職のときに今の仕事に至るような人脈・・・というとイヤらしいけれど、そういうものが形成されたんですね。その後、六本木にワインバー「祥瑞」を開くわけですが、どうしてワインバーを開こうと思ったのですか?

勝山氏:今「祥瑞」が入っているビルのオーナーとの出会いが全てと言えますね。前職でオーナーのお店(酒屋)を訪ねた時「勝山さん、なんかやってよ」と言われまして。直ぐに始める気にはなれず、ズルズルとやっていたんですが、オーナーはずっと待っていてくれまして、やると決めるまでに3年かかりました。

やるとなれば、内装の工事なんかも自分でかなりやりました。最初は居酒屋っぽくやりたかったんですが、周囲やお客との兼ね合いなんかもあって結果的にワインバーになりました。

私:オープンしてからしばらくの間は、今でいう自然派ワインだけじゃなくて、DRCやアンヌ・グロなんかのブルゴーニュの有名ドメーヌものなどを結構やっていたような記憶があるのですが?

勝山氏:そうです。でも、当時もマルセル・ラピエールなんかをやっていました。そういったワインに、それこそDRCやアンヌ・グロ、デュジャックなどのトップドメーヌと共通する「何か」を感じたんですね。

でも、自然派というもの自体をことさらにアピールすることは無かったです。自然派という枠に凝り固まりたくなかった。自然食品だけを扱っているスーパーなんかに行くと、何か違和感を覚えることがあったし、自分自身、まったく健康志向でも無いし(笑)。

そういえば、先日、西麻布のつば○さんが来い来いっていうから、行ったんですよ。そこで本当に久しぶりにピション・ラランドとかシレックスとか飲んだんです。

私:どうでしたか?

勝山氏:ラランドなんかはメドックの中では特異なセパージュの比率で柔らかくて、でも美味しかったですよ。とにかくアレはアレ、コレはコレだな~と(笑)。

私:そういうガストロなワインと今の自然派ワインとは市場からの受け入れられ方が違うのは確かですね。

勝山氏:そうですね。でも、最近の若い人なんかはワインっていうともう最初から自然派ですよね。今回イベントに参加してくれたアヒルストアやuguisuなんかはやっている人も自分なんかよりも下手すりゃふた回りくらい若いし(笑)、当然、お店のお客さんも若い。

そういう人たちはガストロなワインに対する興味というか執着が無いみたいで、そういう意味でも今までのワイン愛好家の人たちとはちょっと違う盛り上がり方をするかもしれないとは感じていました(自然派ワインおよびFestivinというイベント、両方の意味で)。うちの店のスタッフも若いから、やっぱり若いお客と共感・共有し易いんだなぁともね。

私:でも、先日、六本木のお店に伺った時は結構、昔からの常連さんというか年配の方も多かったように見えました。ああいった方々も所謂、自然派ワインに親しんでいらっしゃるのですか?

勝山氏:オールドスタイルというと失礼だけれど、そういうお客様にはあまり極端な自然派ワインを薦めたりしませんね(笑)。自然派でもシャンパーニュをお薦めするととても好評です。

私:そうでしょうね(笑)。イベントではそういうワインも出ていたんですか?

勝山氏:ヴエット・エ・ソルヴェやアラン・ロベールなどのシャンパーニュも出しました。お客さんの中には「こんなワインが飲めるなんて」と喜んでいただいた方もいらっしゃいました。こういうイベントが多くのワインに出会うきっかけになって欲しいし、自分にとってキラ星のようなものも見つけてもらえるといいと思いまして。

私:そんなワインも出していたんですか! Festivinに来られた一般のお客様からのネガティブな反応はありましたか?

勝山氏:参加費6,000円という値段にはね、中には言う人も居ましたよ。少ないですけどね。でも、ワインにしてもインポーターからちゃんと買ってビジネスとしてWin-Winになるようにしたかったんですよ。

「協賛店てことでサンプル持ってきてよ」みたいなことはしたくなかった。インポーターから「イベント参加費はいくら払うんですか?」などの問い合わせもあった。そういう形にもしたくなかった(参加費は取らなかった)。インポーターはマルク・アンジェリ呼んだりして、色々とお金かかっていると思うんだけど、それはイベントの方の経費負担じゃなくて会社として負担してくれた。

そういうところで何となく費用負担を分散したり、よりよいイベントにしようという力は働いたと思いますね。一般参加客の人にもその辺の仕組みというか値段の理由は話せば理解してもらえる部分だと思うんですけど。

私:確かにそういう勝山さんの思いや背景があった上でのあの会費であれば、理解できますし、むしろ安いかもしれないですね。イベントの当初のスタンスは正しく理解、あるいは共有されたでしょうか?

勝山氏:感覚的には伝わったと思う。また、続けることで理解を得られるようになるとも思います。

私:イベントとしての価値は想定した範囲? それともそれ以上?

勝山氏:うーん、空気感というか雰囲気は想定通りだね(普通の表情で)。

私:じゃあ、企画時点で「こんな感じかな~」と漠然と思っていたことがほぼそのまま実現されていたんですね。それって凄いことですよ。私がイベントの存在を知った時点でも最初はコンセプトや主旨をWebサイトにも出していませんでしたよね。既にかなりの人がチケットを買っていた筈なのですが、正直、私はその盛り上がり加減に対して冷めた見方をしていたんです。一方で参加したお客さんは期待もしていたし、精度の高い読みもしていたということですね。本当に凄いことだと思います。では、自然派ワインの市場はさらに初心者ユーザーに向けて広く拡がっていくのか、もしくは深堀系が増えてくるのか、どちらのタイプだと思いますか?

勝山氏:難しいね。個人に依存する部分が大きいですよね。レアなものに執心したり強い拘りを持つ人もいると思うけれど、オープンに楽しんで欲しいと思います。

私:最後に、今後もフェスティヴァンを継続したいと思いますか?

勝山氏:もちろん。そうしたいし、やらないといけないと思いますよ。

私:そうですね、1回やって、足りない部分もあったとしても続けていくことで改善したものを提供できるチャンスを得るわけだから、是非、続けていただければと思います。今日は開店前の貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

と、こんな感じで約1時間ちょっと、勝山さんのお話をお聞きすることが出来ました。

お話をお伺いする際、こちらにはポイントとしては、どういう仕組みでイベントを運営しているのか、目指すことはできたのか、またそれはどのような判断基準に基づいたものか、などを挙げていました。

私のインタビュー力不足で核心に迫るような部分には切り込めなかった部分も少しありますが、勝山氏がこのイベントを続けていく意志を強く感じることが出来ました。そして、勝山氏自身、回を重ねるうちに参加する企業、飲食店、お客のみんながコンセプトをさらに理解・共有でき、イベントがより大きなコミュニティとして発展していくことに期待しているようにも思いました。

私は、当初、コンセプトの共有のタイミングが多少遅いように感じていましたし、コンセプトの精度も疑問視していましたしが、条件が整えば、それを共有・共感が輪となって拡がっていく可能性があるのでしょう。ただし、誰にでもできることでは無いはず。勝山氏が麻布ナショナルマーケットで数字に拘った仕事をされてきた経験と自然派ワインというカテゴリーにおける先駆者としてのアドバンテージと情熱を持ち、軸を定めつつもワインに対してオープンマインドであることが、このイベントの成功基盤を作ったのだろうと感じました。

通常は概念レベルの精度を高め、成功確率を高めるための具体的な様々な方法論があり、それに沿って実施することを考える方が良いと思います。とはいえ、案じるより生むがやすし。場合によっては、まずやってみることの方が重要で、それによって、より意義深い成果を得る場合も多いということでしょうね。


インタビューに快く応じてくださった勝山氏にこの場でお礼を申し上げると共に、Festivinというイベントの継続・発展を心から祈念いたします。

2011年1月6日木曜日

あけましておめでとうございます ~ 脱・一般論

フェスティヴァンねたをアップするのに、もう少し時間がかかりそうでして、その前に小ねたを。

2011年は景気が少し回復するのではないか、と言われています。実際、2010年12月の賞与は少し増えていましたし、期待したくなる気持ちが芽生えるのも当然かも知れません。

これに対し、一般論として、中小企業や個人経営店などには、そういう傾向が見えるにはまだ時間がかかるとの見方があります。私もその見方には残念ながら同意しています。

ですが、クオリティ・レストランはこの一般論を当て嵌められることに対して、大いに抵抗しなければなりません。一般論はあくまでも一般論、研ぎ澄まされた感性/個性をウリモノにするクオリティ・レストランはその存在自体が一般論から逸脱した存在であるべきで、朱に交わって赤くなる必要はありません。さらに個性に磨きをかけて次のステージへの移行を目指すべきです。

大阪の「ハジメ レストラン」の米田氏が2010年11月号の「専門料理」で以下のようなことを述べています。

引用始め
また、長い間、日本のフランス料理は「いかに本場に近づくか」をめざしてきましたが、今は必ずしもそうとは言えません。むしろ「その人の料理」としてオリジナリティを発信できる強さを持つべきだし、それが私たちの世代の課題なのだと思います。もちろん、国籍がはっきりした料理、地域性と密接につながった料理がなくなることはないと思います。郷土料理や伝統料理のおいしさは誰もが認めるところでしょう。でもその一方で、ガストロノミーの世界では、「どこの国の料理であるか」よりも「誰が作った、どんなコンセプトの料理か」が重視されるようになって久しいと感じています。
【引用終わり】

このコメントには100%同意しますし、この前後で述べられた米田氏の洞察力の鋭さ、ロジックの明快さ、視野の広さには感心します。「専門料理」という雑誌の特性ゆえ、あくまでも料理にフォーカスした話となっていますが、上の引用部で「料理」を「店」に置き換えることで(ex. 「その人の料理⇒「その人の店」)、多くの飲食店関係者が共感し、範とすべき核心を秘めていると思います。もちろん、フランス料理やガストロノミーに限った話でもありません。

以前にも書きましたが、まず店の経営者・スタッフが店のコンセプトを共有し、その具現化に注力することで店の個性が際立ったものに近づき、お客からの共感を集めていくのです。せっかく考え尽して出来あがったコンセプトも情報発信されなければ相手に理解・共感してもらえるはずもありません。是非とも積極的な情報発信を心がけていただきたいと思います。不景気による悪影響を最小に抑える第一歩はそれに気付くことです。

本ブログを読んでくださるクオリティ・レストランの皆様にとって、2011年が素晴らしい1年であることを祈念しています。

※それにしても、「ハジメ レストラン」のHPは今回、初めて見たのですが、読むに値するものですね。訪問意欲を掻き立てられました。