2011年7月7日木曜日

【ワインねた】田中克幸氏のセミナー・レポート(混植・混醸について)

久しぶりにワイン関連ネタです(難易度は少し高いかも・・・です)。

6/18の昼下がり、西麻布「プロヴィナージュ」で開催された冷涼ワインセミナーを覗いてきました。講師は田中克幸氏(ワイン好きの方はご存知、ワイン雑誌「ワイナート)の主筆をされていた方です。以下、田中K氏)。

冷涼ワインとは「プロヴィナージュ」のオーナーである田中浩史氏(田中H氏)が「味わいの基軸が酸とミネラル感にあるワイン」の魅力を消費者にも知ってもらう主旨でこのような呼び方を始めました。厳密な定義をしようとするとこれがなかなか難しいのですが、「ひんやりとした感じがある、キレイで余韻の長いワイン」と言えば「あ~、なるほど」、と思っていただける方もいるのではないでしょうか。田中H氏のこの種のワインへの熱い思いに田中K氏が賛同する形で、セミナーという形式を通して、消費者の方と「冷涼ワイン」の共感・共有に努めていらっしゃいます。

今回は混植・混醸というテーマで田中K氏の解説を聞きながら、12種類のワインをテイスティングしました。

●混植・混醸とは?

  • ゲミシュターサッツ(Gemishtersatz)と呼ばれている。
  • 田中K氏はアルザスのマルセル・ダイス(J.M.ダイス)を訪ねたときに、Co-Planter(共植)という言葉を使っていのを聞いたことから、この言葉を思いついた。
  • 厳密に言えば、「一緒に植え」「同時に収穫し」「一緒に醸す」ことを指すだろうが、それらの条件が全て揃わずとも、これら3つの条件のいずれかを満たせば混植・混醸という呼び方をしても良いのではないか、という考え。
  • ローマ帝国以前、寒冷地でも十分に成育可能なブドウ品種を選抜して、遠征隊が持って行って育てた。その遠征の結果として西に行くほどブドウ品種は減っていったのだが、実はそれぞれの地域では自然交配や突然変異により様々なブドウ品種が同じ畑に植えられていた、という歴史もある。
  • この混植・混醸は決してオーストリアやドイツだけで行われているのではない。例えばコート・ロティ(シラーとヴィオニエ)、エルミタージュ(ルーサンヌとマルサンヌ)も然り、アルザスは周知の通り、イタリアでもヴァッレ・ダオスタなどでは当たり前。
  • しかし、一般的に見てもこれらのワインは高い評価を得ているとは言えない。理由は、混植・混醸のワインはテロワールを描くという観点に立った上でのワインの作り方であり、この考え方に沿った評価軸が未だに確立されていない点にある。
  • 従来の評価軸とは品種の個性を重視した結果のもの・・・例えば、アルザスではリースリングやピノ・グリなどの品種の観点から見て都合の良い畑としてランゲン・ド・タンやカステルベルグなどのグランクリュが設定された経緯がある。
何故、混植・混醸がテロワールをより鮮やかに描くことに寄与するのか?これは樹齢との関係もありそう。例えば、サンテミリオンの、あるワイナリーは以下の3つのタイプの畑を所有しているそうだ。

A)カベルネ・フランだけの畑
B)メルローだけの畑
C)カベルネ・フランとメルローを混植した畑

興味深いのはCのケース。Cの畑では一般的には収穫時期が異なる2つの種類のブドウが同時期に収穫できるそうだ。これは品種の違いに拘わらずブドウの熟度を揃えられるということにも繋がる。ただし、樹齢が50年程度経過した場合にのみ、それが可能になる、と。逆にA)とB)が同じ時期に収穫できることは全く無い。

収穫時期を同時にできることは人件費の抑制や作業の効率化、マストの均質な取り扱いが可能となる。そして、品種ごとに別に醸した後にブレンドするのではなく、混醸とすることで人為によるバランスではなく、自然なバランスの確立に寄与するという考え方である。

味わいの特徴としては
  1. 味わいの中心が真ん中にあり
  2. 縦の中心軸がしっかりとあり
  3. 立体感があり、余韻が長い
  4. 少しひっかかりがあるくらいのものもあるが、総じて味わいが動的(Dynamic)でうねりがある(対して、ただのブレンドワインは味わいが静的(Static))→人為に因らない、自然なバランスの確立

白ワイン品種での成功例は枚挙にいとまがないが、赤ワイン品種での事例の中には疑問を感じるワインもある(苦笑)。また、通常、補助品種として使われているものを主要品種的に扱って混植・混醸したものは品質的に少し劣るものがあるように思われる、との意見。

田中K氏の評論は論理的で仮説立証型、もしくは結論からアプローチするスタイルです。「ワイナート」での彼の論を読むと、結果を見て、あるいは仮説を立てて、その理由はかくかくしかじか、こうだからです~と述べていることに気付いている人もいるのではないでしょうか。もちろん、例外はあるでしょうし、異論もあるでしょう。ですが、この彼の現代的で、右脳と左脳がバランス良く機能した結果の評論スタイルはワインという嗜好品を論ずる際に非常に有効だと常々思っておりました。また、そのアプローチだけでワインの全てを語ることはできない、ということを彼自身が理解した上で語っていることも今回のセミナーで感じてました。

(今回はここまで。次はセミナーで紹介されたワインについて記述します。)

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