2010年7月26日月曜日

クオリティ・レストランにとってのコンセプトとは(その3)

前回のエントリーから少し間が空いてしまいました。

似たようなことを繰り返し述べることになりますが、マーケティング・ビギナーの方向けということでお許しを。。。

今の日本ではほとんどの市場が成熟、もしくは飽和しています。そのような状況下においては、消費者は消費することの意味・価値をさらに意識するようになっています。クオリティ・レストランという業態では正にその視点が顕著だと言えるでしょう。仮に今の時代に1回の食事に1万円投じるとすれば、消費者の期待値は必然的に高くなります。しかも、クオリティ・レストラン業界では上の世代の人たちが現役バリバリでやっている一方で様々な事情から若くして独立に至る人も多く、競争は確実に激化しています。ゆえに店側は相当な費用対効果や満足を提供しなければ消費者はリピート客になってくれません。口コミによる伝達力がかなりモノを言う市場ですし、ネットとの相関関係は明らかな失点が無くとも期待値に届かなければネット上での評判が芳しくなければ、顧客どころか見込み客も獲得できません。

このことは、クオリティ・レストランを継続的に経営するためには単なるアイデア(思いつき)ではダメ ~ アイデアだけではコンセプトにはなり得ないし、コンセプチュアルなものしか通用しないことを示唆していると思いませんか。

アイデアが、そのほとんどが何をやるか(What)に集中しがちなのに対し、コンセプトは5W2Hをベースに考えられ、また消費者にとっての意味・価値が丁寧に盛り込まれ、店側が提供するものの値段の高低に拘わらず、その背景にある秩序ある何か→ コンセプトが感じられるべきものだからです。それを繰り返し積み重ねることで、その結果として周囲から尊敬されるオリジナリティを纏ったコンセプトに成長していくのです(コンセプトは静的なものではありません

とはいえ、アイデアはコンセプト形成の起点としてとても意義あるものですし、優れたアイデアであれば他のアイデアとの競争になっても生き残る強さを持っているものです(本質的な強さが必要)。そして、それを最大限活かすための筋道・秩序としてコンセプトを作り上げる/ブラッシュアップさせる必要があるということです。

【コンセプト作りに必要なスキル】
優れたアイデアを生むためのスキルと優れたコンセプトを作りだすスキルは本質的に異なります。
  • アイデア力
    • 一般的な意味での発想力
    • 議論を拡げる力
    • 各方面から情報収集した知識を元に、個人のフィルター・感性を駆使して発想したことを自分の言葉で伝える力
  • コンセプト力
    • アイデアそのものより、創出されたアイデアを集合知化し、組織的に実現させるの視点の方が重要
    • 拡がった意見を収束させる力
    • 先読み力
    • 周辺視野の広さ
      • 一つのことだけに囚われず、その周辺にあるものも含めて認識し、処理する力
    • 物事を多面的、立体的に捉える力
    • 基礎となるアイデアをスタッフやビジネス・パートナーに100%伝える力。
      • 発信された情報はコミュニケーション相手による独自の解釈が入るため、100%の理解は難しいですが、できるだけそれに近づけられるだけのコミュニケーション能力、プレゼン能力
    • コンセプト作りを1つのグループワーク/プロジェクトとして考え、全体の進行をマネジメント、リード(マネジメントとリードは違う)する力
単独のプロジェクトとして、独りで考え、独りで全てをやるのであれば「組織」は必要ありませんが、通常、クオリティ・レストランは複数人数で運営されている場合がほとんどです。店のオーナー、シェフ、リーダーといった職責の人たちには各メンバーの専門性やそれぞれのアイデアを活かし、店全体のコンセプトの観点から不整合の無いようにまとめ上げる力が求められているのです。

いきなり、そんな力を持つことは誰にでも簡単にできることではありません。ただ意識するだけでは実効力に繋がりにくいものです。そこで、フレームワークを使ってみることをお薦めしたいと思います。

フレームワークとは考えをまとめるための枠組み、あるいはそれを支援するためのフォームやワークシートを指します。それを見れば、最初に、そしてその次に何をやらなければならないのか、といった手順もわかりますし、どういう背景・考え方に基づいて多数ある意見・アイデアをまとめれば良いのかといった基本的なことを

フレームワークは型にはまった思考を強いるものとして、クオリティ・レストランというクリエイティブな業種には向かないと思われる方もいらっしゃると思いますが、そんなことはありません。

フレームワークを活用できない理由は、理解が十分でない状態(誤解/曲解含む)での使用を強行することによるものが多く、正しく使えば、一定以上の成果を生む確率が上がりますし、コストパフォーマンスもかなり高いというのが実感です。

ここでは、アイデアをコンセプト化する際のフレームワーク(ワークシート)を挙げてみます。このシートは「【実践】コンセプト・メイクの技術」 by 平林千春 from 実務教育出版 に掲載されていたものをほぼそのまま転載いたします。




















このシートもあくまでもアイデアをコンセプトに変換する際のフレームワークの一例です。
残念ながら、本の中にこのフレームワークの使い方が書かれていませんので、使い方を簡単に記述しておきます。

【テーマ】
「仏造って魂入れず」という言葉がありますが、ここでの「仏」がテーマ、「魂」がコンセプトになります。クリアすべき課題と言い換えることもできるかもしれません。

例えば、

・20代の若い人にも3か月に1度は本格的な江戸前寿司を食べさせたい
・幅広い年齢層の人に愛される本格的なイタリア料理を提供する
・比内地鶏と名古屋コーチンを備長炭で調理するこだわりの焼き鳥屋

などがテーマの例として挙げられるでしょうか。

【アイデア出し】
スタッフや外部委託業者(例えば内外装、Web制作)が決まっていることが前提ですが、1人のチーム内のブレーンストーミングなどでアイデアを出す場合は相手の意見を否定せず、全てを出し切る(議論の輪を拡げる)ことが第一歩となります。

1回のブレーンストーミングで全てのアイデアが出るとは限りませんが時間は有限ですから、リーダーは「何月何日、こういうテーマでアイデア出しミーティングをやるので事前に考えておいてください。時間は2時間」などと決めておくと良いでしょう。なお、「アイデア出し」に限らず、各フェーズ終了の際にはその旨をメンバー間で周知・共有することも重要です。

【収束するポイント】
テーマに沿ったアイデアを出せるだけ出したら、それをコンセプトに落とし込めるよう収束させる必要があります。この段階でアイデアの善し悪しが選別されるべきです。このとき、

・5W2Hのそれぞれから見た実現性の有無など
・想定されるリスクとそのダメージ、回避方法など
・事業目的との親和性・整合性・・・etc

などが選別の視点として有効だと思います。

【関連するテーマ/対象】
メインテーマをさらに深く絞り込んだもの(サブテーマ)やそれまでに見えていなかった別の視点を記載することで、コンセプトを決定し易くします。例えば、「20代の若い人にも3か月に1度は本格的な江戸前寿司を食べさせたい」というメインテーマに対しては以下のような関連テーマが考えられます。

・20代若者の外食離れ防止
・20代若者の和食離れ防止
・ファストフードとしての寿司を高品質に提供
・20代若者のアルコール(ビール、日本酒)離れ防止
・伝統的な和食へのオマージュと新たな気づきを提供

・・・etc

【コンセプトの方向性】
それまでのインプットから方向性を決めます。安易に各アイデアの妥協点を探すことではありません。優れたアイデアを活かし、理想に近づけるための各要素が点では無く、線や面として整合性を持って繋げるための道筋を決めていきます。

【見い出したコンセプト】
字面の通りです。書き記すことで曖昧さを減らし、関係者間での共有を図ります。

【その理由/背景】
これを記載しないとコンセプトが長続きしないし、途中で霧散しそうになったときに振り返ることができません。コンセプトを維持・再生・発展させる上で重要な情報となります。

※ちょっと焦点がボケているかな~??

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